安倍晋三氏、ワシントンで講演す

10月15日にハドソン・インスティチュートというシンクタンクでご講演された原稿があったよ。お元気そうでなによりですね・・・せっかくだからChallenges Facing Japan [2]: The Rise of Chinaを訳してみますね。全文はここ:Remarks by Former Japanese Prime Minister Shinzō Abe:pdf

日本が直面している2番目の試練は、中国の成長だ。近年、G20サミットなどの国際会議の場における中国指導者の発言が、国際的な注目を集めるようになった。日本はかつてのG7やG8での「アジアのスポークスマン」の座を譲った。「中国の成長」は経済的な現象だけではない。この20年で中国の軍事費は急激に増え、1990年の20倍にもなった。中国はその海軍力を増強させ、宇宙開発やサイバースペースなどでも軍事的な進歩を遂げている。しかし、何よりも刺激的なのは海軍の伸張である。中国は台湾を支配しようとしているだけではなく、南シナ海東シナ海、そして南太平洋全体を支配しようとしている。よくご存じのとおり、Andrew Krepinevich氏はWall Street Journalの9月11日号で、「中国の太平洋におけるフィンランド化計画」という記事を発表した。(Andrew F. Krepinevich: China's 'Finlandization' Strategy in the Pacific - WSJ)彼は私自身が長年考えてきたことを言葉にしてくれた。
1980年以降、中国の軍事的戦略は「戦略的前線」という考えに基づいている。一言でいうと、この大変危険な考えによると、国境線や排他的経済域は国力によって決まるものであり、経済力が拡大する限りその影響力も拡大するというものである。これをドイツの「レーベンスラウム」になぞらえる向きもあるかもしれない。
1996年の台湾海峡危機が中国海軍の拡大のきっかけであったと考えられる。私はこの事件を思い出すたび、1962年のキューバ危機とソ連がその時とった道を思い出す。1962年のソ連と1996年の中国は、ともに圧倒的な米国の海軍力に降服を余儀なくされ、ともに海軍力増強に走った。我々はソ連の顛末がどうなったかよく知っている。
私には、中国共産党幹部がこのアナロジーをどう見るか知るすべはない。ソ連の運命をたどることを恐れながらも、軍事力拡大を求める人民解放軍に抵抗することができないのかもしれない。どちらにせよ、中国の軍事力拡大で彼らが得られるものは何もない。たとえば、空母は必要ない。 台湾や他のアセアン諸国を制圧しようとしても、巨大な財政負担となるだけでなく、他のアジア諸国の信頼を失ってかえってその影響力を損なうだろう。すでにそのような結果が起きている。ASEAN諸国は中国の南シナ海における高圧的な態度に強く抗議した。さらに、ASEAN諸国は中国の危機に対して米国との関係を強化しようとしている。 ASEAN 諸国は南シナ海で中国がやりたい放題できないという強いメッセージを送ったのだ。
それなのに、日本は中国に間違ったメッセージを送った。先月、中国の漁船が日本の尖閣諸島付近の領海を侵犯し、海上保安庁警備艇にわざと2回ぶつかった。このような野蛮な行為は見過ごすことはできない。船長は日本側に拘束されたが、中国からの強い圧力で解放されたのは大変おろかな行為であった。Krepinevich氏の視点のように、中国の究極の目的は日本と韓国のフィンランド化であって、首相官邸の現状認識は恐ろしく弱腰だ。
もちろん、中国との協力関係を進めなければならないが、競争が必要なところでは争うべきだ。しかしそれはアジア、ひいては世界の平和と安定に寄与するやり方でなされなければならない。これこそが中国の従うべき路線であり、そこから外れれば非難されるべきである。この路線こそが私と中国側で合意した「戦略的互恵関係」の基礎である。
中国共産党の一党支配は、「結果の平等」の保障によって続いてきたが、今日は「愛国主義と経済成長」が根拠となっている。党は国民の愛国心を育て、経済成長のためには何でもする。中国指導者が何より恐れるのは経済成長の終わりである。経済への不満が国民の視野の狭い愛国心と合体し、指導部への怒りに変わるのを恐れているのだ。
日米両国は、中国の持続的な経済成長から得るものが大きい。同時に、中国は海外拡張主義によって成長を求めるのではなく、自由、民主主義、基本的人権、日米が長らく尊重してきた法治主義への敬意によるべきである。我々は、ともに中国がこれらの価値を尊重するよう協力すべきである。

感想:安倍氏がそんなに民主主義や人権を尊重してたとはしらんかった。日本国内でもぜひ大きな声で言っていただきたい。